1階の座敷座りの広間の喧噪が一気に飛び込んできて、なんだかわくわくしてくるが、あぐらの苦手な私は、地下のテーブル席に向かう。
「とりあえずビールと鍋一枚!」本当にこの『どじょう鍋』というやつは、薄くてちょこんと取っ手の付いた鍋といい、どじょうの並び方、炭の赤々と燃える専用の七輪、これまた人が長年握っているせいで細くなっている台の木箱、どれをとってもダシとネギの匂いがしみ込んですごく美しい!
初めて来たとき、どうしていいのか戸惑っていると、隣の老夫婦のご亭主の方が、「ネギは思い切り山盛りにしな」と教えてくれたのを思い出し、山が崩れて鍋の下に落ちていきそうなほどネギを高く盛り、「よっしゃ~」などと一息ついてビールを喉に流し込む・・・・至福の時間ですな。
枝豆とゴマ豆腐なんかをつつきながら、酒がビールから升酒にかわった頃に、ようやくダシがネギにしみ込んで、どじょうも「そろそろやんなよ」とヒゲを伸ばしてくる。
どじょう汁のどじょうがまだ腹の中で踊っている頃、暖簾をくぐって外に出ると大川(隅田川)からの風が鬢のほつれを誘って・・・・なんて色っぽいシチュエーションだといいのだが、足は自然と雷門の方向に進んでいて、バンダイの人形をひとなでふたなでしているうちに、たどり着くのはこれまたドアを開けると一気の音量の大きくなる酔っぱらい達の話し声の渦。
ウエーターのお兄ちゃんの食券のもぎりがいまいちぎこちないなあ、などと思いながら、ここは静かに汗をかいた小さなグラスの『電気ブラン』をキュッとやる。
これまた至福のひととき。