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2013年9月1日日曜日

はるか十勝の噴煙

 北海道の観光スポット美瑛町でちょっとした仕事があり、その後帯広に移動するのでこれまで何度か訪ねた白金温泉か吹上温泉で一風呂浴びようと、所々に蕎麦の花が咲く風景を見ながら山道を進む。

 
 そもそも、旭川から車で1時間ちょっとのこの場所に来ることになったのは、日本百名山のひとつ十勝岳に登るためだが、初めて十勝岳を見たのは1980年代後半の十勝岳噴火の後の復旧作業がどうにか進み、噴火口に近い十勝岳温泉も営業を再開した頃で、宿泊したものの、いつまた噴火するかわからないというような時期で登山どころの話ではなかった。

 二度目は噴火も落ち着いた頃、吹上温泉の自炊施設「白銀荘」に宿泊し、翌日ちょうど私の誕生日の11月27日に三段山経由で頂上を目指したものの、その三段山を過ぎた頃から雪が降り出し、尾根に出た頃には横殴りの雪に変わり、11月でこんな天気になるとは思ってもいなくて、装備も不十分なのでやむなく下山。

 三度目は雪の残るゴールデンウイーク明け、オホーツクの斜里に住む友人と再度白銀荘に宿泊し、少し柔らかくなってきた雪の上を歩き十勝に向かったものの、またまた三段山を越えた尾根道できれいに弧を描いた雪庇が足下に現れた。雪庇の下は古い噴火口後のカールがはるか下まで続き、雪庇が崩れたらあそこまで転げ落ちるわけだな・・・・とお互いの顔を見合い、今日はやめておきましょう!と引きつる笑顔で下山した。

 結局、4度目に数年前家族で吹上とは反対側のルートから十勝岳の頂上にたどり着いたけど、
このあたりの温泉は何度来ても気持ちが良い。

 そんな場所に、2012年Apple社のMacBook Proの壁紙に採用され話題のスポットになったという『青い池』なるものがあると聞いて寄ってみる。
確かに青い。
 この青は人工的に作った堰に上流の滝の水が流れ込み、そのみずの中にアルミニウムが含まれていて、それが何かと反応してこんな色になると言う。
観光客の車が代わる代わる駐車場に入ってきて、池の周りはカメラマンやカメラ小僧たちが三脚を立て、家族連れが記念撮影をして、外国人グループが何だか喚いている。
そんな中、スケッチをするグループなども居たりするが、私はひたすら林の向こうのいまだに噴煙を上げている十勝岳に視線が行ってしまう。




 ちなみに、その吹上温泉には白銀荘のプールのような巨大な露天風呂の他に、少し離れた場所に誰でも自由に入れる「吹上の湯」なる露天風呂がある。
大きさは大人が4~5人入れば一杯になるような湯船が二つ。ただし、混浴で、しかも湯守というかへんてこなおじさんがいつも一人いて、何しろものすごく熱いお湯なので、すかさずホースから出ている水でうめようとすると、「バカ者!水は入れるんじゃない!」と怒り出し、いつも入浴者を監視している。
 でも、面白いのは、そんなゆであがるような熱いお風呂もその湯守おじさんも好きだというファンも居るようで、駐車場でキャンプしながら湯治を楽しんでいる人もいる。

進路を南に取るとサンダーバード

 人がたくさん集まっていて、なかなか取っつきにくく敬遠している場所に上高地という場所がある。
 大正池や河童橋あたりを散策する人だけならまだしも、最近は山ガールだの山爺だのわんさか穂高に向かって登っていき、そんな雑踏に引きずられて登るのが億劫で行ってない場所「奥穂高」に、今回は裏技を使って、穂高連山の反対側の新穂高側からやっつけよう(この言葉もあまり好きではないが・・・・)と山岳会のベテランを誘って出かけた。

 
 お盆の時期というと人がわんさか交通渋滞で、動くより待つことを強要されることが多いように感じていたが、ここ近年は日本人も休暇の取り方がうまくなってきたのか、はたまた趣味趣向の多様化のせいで行楽地は平均的に散らばっていくためか、8月16日朝夜明け前に金沢を出発し、7時頃には新穂高のロープーウエイ下までたどり着いた。

 
 
 今回はここからちょっと面倒な問題が出てきた。というより予想を遙かに上回る状況が目の前に立ちはだかってしまった。
通常、新穂高の駐車場から林道を歩き、奥穂高に向かう登山口「白出沢出合」までは約2時間かかる。この一般車両進入禁止のだらだら林道歩きを、今回は自転車を持ってきて、少しでも時間短縮をと考えた。この手抜きで安易な発想が問題を起こしてしまった。
なんと間抜けなことに林道にも標高差があることをすっかり忘れていた!
自転車、15段変速いわゆるマウンテンバイクに颯爽と跨り、何人かの登山者を追い抜いていくまでは良かったが、走り始めてわずか5分くらいで坂がきつくなり、どうにか一番軽いギアでゼイゼイ言いながら進むも、坂は断続的に現れ、結局半分以上は自転車を押して歩くことになってしまった。
林道の半分も行かないうちに呼吸困難になり、穂高平小屋ですでに戦意喪失状態で、情けないかなへたりこんでしまった。
小屋のおばちゃんが同じコースを上ろうとしている若いペアに「途中に水場はないから、しっかり見ず持って行ってね!」などと話しているのを横目に、時計を見るとすでに午前9時。

「これは今日の体力では日暮れまでに、教科書通りだと8時間は掛かる穂高岳山荘までの登りは無理だな・・・」と私。
同行のベテラン山ちゃんも、「私も体調が悪いと高山病が出るんです、奥穂高まで持つかな」とつぶやいたのを聞いて、今回はあっさり目的地変更。

 
ということで、急遽持ち上がった山が、槍ヶ岳と奥穂高というメジャーな山のほぼ中間に位置する「南岳(3,033m)」それも、今日は槍平小屋でのんびり過ごして、南岳には明日早朝発のピストンにしようと根性なしオヤジの意見はまとまった。
 
 気持ちは一気に楽になり、自転車を白出沢出合の登山道入り口に置き、槍平小屋へ向かう。
以前、この道は槍ヶ岳に登る際に使った道で、何となくその時を思い出しながら進んでいく。
ブドウ谷、チビ谷と進み、滝谷へ


さすがにこの中途半端な時間には人もまばらで、静かな登山。
藤木九三レリーフの前の木陰とせせらぎは気持ちよすぎて、もうここで終わりでもいいかなと思わせたりする。



お昼前に槍平小屋に到着。朝食後に多くの登山客を送り出し、午後の到着の客を待つ昼頃の山小屋は人気のない静けさ。

さっそくビールを片手に日向ぼっこしながら昼食。
心地よい風が時折吹いてきて、うとうとしてしまう。小屋に入ると定員6名の部屋にはしっかり布団が敷いてあり、広いスペースを2人で使い大の字になり昼寝に突入。
至福の時間。

 昼食を摂っているとバタバタがやがやと年配の団体が二組到着して、一気に小屋の回りは関西弁と北関東あたりの言葉の渦が立ちこめたが、それも風に流れてくるBGMとしていただいて、のんびり夕食の時間まで布団の温かさを享受していた。
聞くと、この二組、片方は明日南岳経由で槍ヶ岳へ、もう一つのグループは南岳経由で奥穂高へというルートで、どちらもそれぞれの山小屋でもう一泊するとのこと。やっぱり、もう一日必要だったね、でも、どちらの山小屋も私の高山病エリアに達するので、長く滞在することはできないから無理だな、それにしてもご老体方の元気なこと・・・・。

 さて、翌朝は休養満タンの体調で、夜明けと同時に南岳への南岳新道から西尾根へ



徐々に高度を上げてハシゴ場が続く尾根沿いに登り、谷をのぞく。

川の向こう側には鏡平山荘の赤い屋根も見えて、回りの植物も少し秋の色に変わってきている。
山イチゴの実も一杯生っていて、酸っぱいけど結構いける味。
 

2600mを超えた細い尾根道に設置されている救急箱

一度カールを谷に向け下りて、また登って2800m
 
 

 チングルマも秋の姿になっている。
このあたりから霧が一気に登ってきて、風が冷たくなり周りが見えなくなってくる。
南岳小屋に到着。

何人かの人が北の槍ヶ岳に向かおうか、南の奥穂高に向かおうか、作戦を練っていた。
とりあえず南岳頂上へ。晴れていたら槍も穂高も最高にきれいに見えるだろうな、と感じさせてくれる。

この霧でどうしようか迷っている登山者が数人いたが、私たちは無理をせず素直に下山。
途中、トレランで走っていった若い2人がいたくらいで、下山する人に全く出会わない。
霧でこの静けさと言えば・・・・・と思っていると、

「クエ、クエッ」と独特の鳴き声がして、雷鳥のファミリーが現れた。
 



親鳥と雛が3~4羽居たが、雛は草むらの中を動き回っていてなかなか写真に納められなかった。
じっと立っている私たちの直ぐそば、2m位の場所まで近寄ってきた。
 

 
再び、尾根を通り下山へ。

 風のにおいは確かに秋の気配。