「いいじゃないかそれから行こう!」と即答してしまうほど、富山湾の魚は新鮮でおいしい。
その中でも氷見の魚はそれで一つのブランドになっているようだ。
そんな氷見の町にも商店街はあり、全国のあちこちでみられるように、メインストリートと言われた通りの店はおよそ半分くらいシャッターが降りたままで、休日などはひっそりしている。
多くの町がどうにか活性化させようと若い人たちがそれなりにがんばっているようだが、どこも今ひとつ決め手がないようで、なかなか簡単にはいかないようだ。
でも、そんな静かな町が小春日和の散歩にはちょうどいいのは、申し訳ないというか、これも売りにならないのかと感じさせる。
外れの橋から歩き出すと、まもなく漫画家「藤子不二雄」ゆかりの地と言うことで、商店街のあちこちに漫画のキャラクターの像が出現してくるが、それもちょっと塗装の剥げかかったものもあり、妙に浮いて見えたりする。「ほのぼの」と「寂しさ」の混在した雰囲気。
予想以上に長く続く商店街を歩くうちに、暖かさからか汗もかすかにかいてきて、ふと、どこからともなくいいにおいが漂ってくる。
そのにおいに誘われて角を折れると、煉瓦の煙突をそびえさせ、木造ながら大きなカーブを描いたモダンともとれる建物が見えてくる。においの主はこの建物で、ちょうど仕込みをしているところだった。
建物に入ると、すぐに大きな仕込みの樽があり、湯気とともに一面醤油のにおい。
近所の人が買い物袋をを下げて醤油を瓶で買いに来て、今まで仕込みをしていた若いお兄さんが
作業着の前掛けで手を拭きながら出てきて接客もしだす。
「いいにおいですね、見てもいいですか?」と聞くと
「どうぞどうぞ、でもそんなにいいにおいですか?私はもう鼻が慣れていて、においがわからないんですよね」
山の下に「ト」の字の至極シンプルな屋号のラベルが何ともかわいく見えてくる。
だが、この『本川藤由商店』 この醤油のにおいがしなかったら何の店かわからない。
若いお兄さんは後継者だろうか、最近作った自慢の刺身醤油『プリンスしょう油』を勧められる。
ラベルは藤子不二雄の書いた魚の絵。
山にト印の一般用醤油1リットル入りと『プリンスしょう油』を抱えて、歩いてきた商店街を戻ると、
今度は甘いものが欲しくなり「きんつば」の大きな文字に惹かれて『御菓子司次郎平』に入り、「名物きんつば」を買う。これがきんつば?と思わせる形のものだが、本来きんつばは「鍔」なのだからこの形が正解なのかもしれない。あんこが素朴な味でおいしかった。
ちなみに歩き出した商店街の外れの橋のたもとにも醤油屋さんがあり、
その資材置き場だか燃料倉庫だかを改造して若い人達が町おこしボランティアの拠点兼カフェとして使っている。
カフェはシンプルでしゃれた作りになっていて「自然素材のランチ」なんてものがメニューにあったりするが、醤油ときんつばは忘れてもらいたくないし、もっと普段着で歩けばこの町にもいいものがしっかりあると思う。