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2013年9月16日月曜日

三度目の正直。台風直前の百名山No.95『鷲羽岳(わしばだけ・2,924m)』

 山に登る人にはそれぞれ色んな思いがあり、一歩一歩重い登山靴を持ち上げて歩みを進めていく。
 四季折々の自然の風景を肌で感じ取りたい、日常生活のいろんな気苦労から解放されたい、色んな地方の登山好きの人々と知り合いたい、自分の体力と精神力の限界を知りたい、はたまた、そこに山があるから登りに行く、などなど、人それぞれである。

 私の場合はどうだろう。
四季の移り変わりや木々や土のにおい、鳥や小川の音に体が純化されていく感じがして、したたる汗に自分の存在を改めて確認する、などと言ったらかっこよすぎるか・・・・。
一番は「一人になりに行く」ことかな。
 日々の社会生活の中で、多くの人に出会い、挨拶をして、利害関係が絡み合う中、気を使って、落胆したり喜んだり怒ったりするわけだが、そんなわずらわしさの種々雑多も残念ながら社会人である以上簡単には放棄できない。そこでしばし一人になり、仙人にでもなった気分でリセットしに行く、といったところか。数人のグループで登っていても、登っている間は黙々と一人の時間に浸れるのが登山の良いところかもしれない。

 でも、世の中には反対に一人が嫌いで登りに来ている方も多いようだ。
どうしたわけか、私は話しかけやすい雰囲気を持っているのか、全然知らない土地で初めて歩いている海外の街角でもよく道をたずねられるが、山でも同じように声を掛けられるみたいだ。
 山小屋での夕食時など、さて、たいしたメニューでもないが明日のために腹に収めておくか、と醤油挿しを片手に持った瞬間。「今日はどちらからですか?」と声がして、「えっ?私ですか?」と指にはりついた醤油の粘つきを気にしながら今日のルートを反芻して話したりする。
 近々の山の天気や登山道の状況などは地図やガイドブックには載ってないので、そこを実際に歩いた方に聞くのが一番で、その情報を元に自分の次のコースを検討し直すこともしばしばあるので、それはそれで見たこと感じたことを伝えるのだが、話しかけてくる方の中には、情報を聞いた後の話が長くなる方も結構いる。要は、自分の体験談からお進めのコースや注意点を話し出すのだが、それがいつの間にか武勇伝や自慢話に発展していて、酎ハイの缶などを片手に柿の種をほおばりながら話は延々と続いていく・・・・・。
 この人、日常では会社でも恵まれた環境にいなくて、奥さんや子供にも相手にされずひとりぼっちなのかな、などと感じながらも、いつ自分がこうなるかわからないなという自分の姿も時々頭をかすめる。
ところが「いや~、まいったなあ、これはなかなか逃げられないな・・・」と思ったそんなとき、どこからとも無く「そこの尾根なら私も去年やりましたよ!」と今まで知らん顔していた隣のグループのおばちゃんの一人が振り返りざま突然会話に参加し、やがてお互いの口から柿の種とピーナッツを飛ばし合いながら会話は白熱したりする。この手のおばちゃんは、たいがい横で小さく頷くだけの旦那さんをお供にしている。
私はやった、ラッキー!と小躍りして、「ちょっと天気予報見てきます」と言ってその席をさりげなく去るのだ。

 さて、今回の山行は三連休を使い、双六岳~三俣蓮華岳~鷲羽岳を縦走するコース。
問題は台風が近づいていて、途中どんな状況になるかわからないという、イレギュラー大好きな私にはウキウキする登山。

 9月14日朝6時。新穂高ロープ-ウエイ下の駐車場を、ちょっと怪しげな雲を見上げて出発。
しばらくすると、確か登山道が崖崩れか何かで閉鎖されていた笠ヶ岳への登山道「笠新道」入り口にたどり着き、「な~んだ、もう通れるのか」と進む。

 歩き出して約1時間で林道脇にあって山小屋と言えるのかな?と感じるほど快適な雰囲気の「わさび平小屋」に到着。冷えた瓶ビール共々、この後お世話になるとは、この時全く考えもしなかった。



林道から登山道「小池新道」に入る。やっぱり林道を自転車で来る人はいるんだな。
 

大きな石の道が続き「秩父沢」
どれがその石なのかわからないが「チボ岩」と続き
その名の通り、ウドの花が一面の「シシウドヶ原」
秋の季節は青や紫の花が多いがその典型的なトリカブトもしっかり咲いている。

「クマの踊り場」なる場所 。何踊りかいな?

そして、この景色を見に来る方が多いので人気の「鏡平池」
正面の槍ヶ岳が湖面に映るいわゆる逆さ槍は朝が一番の見頃とか。

池の裏の鏡平山荘で昼食と山荘特製かき氷で英気を養い、今日の宿泊地双六小屋にたどり着く。
北アルプスの縦走の中継地点のこの小屋は、大きな別棟も建て増ししたようで大きな山小屋。
ここまでとりあえず台風の影響での雨もなく一安心。

9月15日朝6時出発、夜中に雨が屋根をたたく音が聞こえたものの、霧雨が時折顔に感じる程度の空模様の中、双六岳に向かう。巻道との分岐点。後ろに三俣蓮華、鷲羽が見える。
雲が山々を速い速度で流れていき、景色が刻々と変わる。
足下を突然雷鳥が通り過ぎる。


双六岳への道、振り返ると槍ヶ岳


双六小屋から約1時間、槍ヶ岳をバックに双六岳頂上


次は三俣蓮華へ、今度はイワヒバリが目の前に来て、誘導するように飛び跳ねる。

三俣蓮華岳頂上 。回りの霧が濃くなってくる。
小雨が時折降る中、目標の鷲羽岳がどっしりと姿を現す。その麓には三俣山荘。

これまで二度鷲羽岳には登れなかった。
一度目は土砂降りの中、雲ノ平から水晶岳に登り、ずぶ濡れで水晶小屋に着いたものの、地図では直ぐそこの2時間ではあるものの、全く景色が見えない天候の中に飛び込む勇気が無く行けず。
二度目は黒部五郎~三俣蓮華~鷲羽岳の予定が体長悪く中断。
今度こそはの三度目。
雨が降り出した三俣小屋から
風も相当強くなる中、400mの標高差を一気に鷲羽頂上へ。
にっくき鷲羽に拳でポーズ。 2900mを超えているだけにちょっと高山病気味。
鷲羽側から見た三俣小屋


 と、このあたりでカメラの調子が悪くなり、雨も時折激しくなって、どうにか双六小屋まで下り、昼食に小屋の牛丼をがっつく。
 ここまでで本日の歩き7時間半。時間はまだ14:30、台風の影響を考えると今日は行けるところまで行こう!と言うことで、牛丼の紅ショウガのにおいを漂わせて更に1時間半下り鏡平山荘へ。
 鏡平山荘では登りの時のかき氷の賑わいはなく、人が全くいなくて、それもそのはずほとんどの方が下山してしまったとのこと。
 小屋に入るといきなり条件付きの宿泊を言い渡される。その条件とは、明朝に掛けて台風がほぼ直撃が予想され相当の雨が降ると思われる。そのため、下山は登山道の安全を確認してからの行動になり、その確認作業は明日の午後になる見込みで、従って下山はその後、もしくはもう一泊していただくことになる、というもの。
明日のご予定が気になる方は雨の降ってない今下山した方が良いとのことで、急遽あの瓶ビールの冷えたわさび平小屋まで下ることになる。

「こんな所歩いたっけ?」と何度も言いながら最後はヘッドランプを付けて午後6時過ぎわさび平小屋に到着。
朝6時に双六小屋を出たので、この日は12時間歩いたことになる。
 ちょっと驚いたのはさすがに林道の脇にある山小屋だけに物価が安く、行きの時に見たあの瓶ビールをいただける。しかも、ここには温泉でないがお風呂まで付いていて、汗を流してまた瓶ビール!夜半から台風の影響で雨脚が強くなったので、残り物をかき集めての暗闇での夕食のほんのしばしの休息の時間だったが、どうにかここまで下りてきて良かった!

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